石けんの特性は?
界面活性剤の中でも他の合成界面活性剤とは隔てて扱われている石けん。
石けんには、他の合成界面活性剤には見られない特性があります。
より安全で洗浄効果の高い界面活性剤である石けんを生活の中に取り入れていけるよう、その特性をまとめてみました。
1、臨界ミセル濃度を下回ると失活する
臨界ミセル濃度(cmc)を下回っても界面活性作用を失わない合成界面活性剤と違い、石けんはcmcを下回るとその界面活性作用を簡単に失います。
「石けんには泡が大事」といわれるのはこの特性から来るものです。
そのため、一度ミセル内に取り込んだ汚れでも、石けん液の濃度が下がるとその汚れを離してしまい、また汚れがついてしまうということになります。そのため、台所での洗い物などはすすぎを流水で行う工夫が必要です。
逆に肌に使う場合には、界面活性作用が肌に影響を及ぼさないという利点にもなります。
肌に付いた石けんの界面活性剤は、健康な肌では常在菌によって脂肪酸に分解され、弱酸性の皮脂膜となります。
排水として流された後、薄まることによってすぐに失活しますので、浄水場の微生物や下流の水中生物に影響を与える危険性も少なくなります。
浄化槽をお使いの方でしたらご存知だと思いますが「石けんは大丈夫ですが、合成洗剤は使わないでくださいね」といわれるのはこのためです。
2、酸に弱い
アルカリ性である石けんは、酸によって中和されることにより失活します。
皮脂汚れの主成分は酸性物質である「脂肪酸」、またソースやマヨネーズ、ケチャップといった調味料、果汁など汚れの多くも酸性物質です。
そして、そういった汚れによって中和されることで失活してしまうのです。
これを防ぐには、界面活性剤濃度を高めるという方法もあるのですが、それは結果的に排水中の有機物を増やすことにも繋がってしまいます。
石けんはpH8.5~10.5前後であり、その近辺で効率的に働きますので、石けんのpHが下がらないような工夫をすると中和による失活を抑えることができます。
炭酸ナトリウム(pH11.2)などのアルカリ助剤を使って、石けんのpHが下がらないようにするとよいでしょう。洗濯や台所用の石けんには、あらかじめ助剤としてアルカリ緩衝作用のある炭酸塩が含まれている製品もあります。
台所の洗いものでしたら、汚れをあらかじめ古紙やスクレイパーなどで拭き取っておくことも大切です。
お洗濯で石けんを使う場合には、助剤として炭酸塩が含まれているものを選んだり、あらかじめ洗濯液にアルカリ剤を入れたりすることによって、中和による洗浄力の低下を和らげ、石けんの使用量をできる限り抑える工夫が必要になってきます。
3、ミネラルに弱い
合成界面活性剤のうち陰イオン界面活性剤の多くは、水中の硬度成分である二価陽イオン(Ca2+、Mg2+)と結合することで金属石けんとなり、性質が変えられ洗浄力に影響が出ます。
特に石けんの界面活性剤は、金属石けんとなりやすく、簡単に洗浄力を失ってしまいます。
石けんを水に溶かしたとき、水が白く濁るのはこの金属石けんが生成されたためです。
また、色の濃い洗濯物につく小さな白い粉状のものもそうです。お風呂で洗面器に浮かぶ石けんカスにも含まれています。
金属石けんは、長鎖脂肪酸とナトリウム・カリウム以外の金属との脂肪酸塩で、それ自体に洗浄力はありませんが界面活性作用があり、工業用に幅広く使われているほか、食品添加物や医薬品、化粧品材料としても活用されているものです。
肌に対して毒性は確認されておらず、肌を引き締める効果があると同時に「肌がつっぱる」原因にもつながります。また髪に対しては、ハリやツヤを与える効果があり、同時に「髪がきしむ」原因にもなります。
日本の水道水硬度の平均は50〜60mg/Lです。
【北海道】 |
北海道 |
32.818/ml |
【東北地方】 |
青森県 |
42.684/ml |
|
岩手県 |
40.971/ml |
|
宮城県 |
28.66/ml |
|
秋田県 |
30.284/ml |
|
山形県 |
27.801/ml |
|
福島県 |
35.09/ml |
【関東地方】 |
茨城県 |
66.469/ml |
|
栃木県 |
50.658/ml |
|
群馬県 |
57.343/ml |
|
埼玉県 |
75.015/ml |
|
千葉県 |
81.775/ml |
|
東京都 |
65.304/ml |
|
神奈川県 |
61.85/ml |
【北信越】 |
新潟県 |
32.188/ml |
|
富山県 |
30.461/ml |
|
石川県 |
44.074/ml |
|
福井県 |
37.895/ml |
|
山梨県 |
53.991/ml |
|
長野県 |
47.729/ml |
【中部地方】 |
岐阜県 |
37.782/ml |
|
静岡県 |
52.582/ml |
|
愛知県 |
26.476/ml |
|
三重県 |
45.649/ml |
【関西地方】 |
滋賀県 |
45.872/ml |
|
京都府 |
42.462/ml |
|
大阪府 |
44.084/ml |
|
兵庫県 |
48.24/ml |
|
奈良県 |
48.847/ml |
|
和歌山県 |
53.935/ml |
【中国地方】 |
鳥取県 |
40.94/ml |
|
島根県 |
28.213/ml |
|
岡山県 |
47.414/ml |
|
広島県 |
28.819/ml |
|
山口県 |
40.104/ml |
【四国地方】 |
徳島県 |
47.779/ml |
|
香川県 |
47.423/ml |
|
愛媛県 |
58.279/ml |
|
高知県 |
43.883/ml |
【九州地方】 |
福岡県 |
60.815/ml |
|
佐賀県 |
45.307/ml |
|
長崎県 |
38.37/ml |
|
熊本県 |
70.449/ml |
|
大分県 |
52.337/ml |
|
宮崎県 |
39.336/ml |
|
鹿児島県 |
48.67/ml |
【沖縄】 |
沖縄県 |
84.006/ml |
世界的にみると日本は軟水地域なのですが、それでも石けんは硬度成分の影響を受けます。
洗浄用の石けん液が0.1%程度の濃度で使われることを考えた場合、硬度50mg/Lの水を使用すると、その約4分の1が金属石けんとして消費されてしまう計算になります。
せっけんを始めとする陰イオン界面活性剤は、基本的に硬度成分の影響を受けるものが多いです。これを抑制するために添加されるものがキレート剤です。
クエン酸はキレート作用を持ち、金属石けんを溶かす働きをするほか、中和によりアルカリの影響を抑える効果があります。石けんシャンプー時のリンスとして、またお洗濯時の仕上げの柔軟剤として利用されています。
4、冷水で溶けにくい
特に飽和脂肪酸からできている石けんは、冷水に溶けにくい性質があります。
お風呂で石けんを使う場合には水温が高いので、パルミチン酸・ステアリン酸を含む油脂の石けんでもしっかり溶けて泡立ち、ほとんど問題はありませんが、お洗濯で石けんを使う場合には水温が大切になってきます。
ヤシ油やパーム核油を原料にした石けんには、冷水に溶けやすいラウリン酸・ミリスチン酸の石けん成分が多く含まれますが、それでもその界面活性剤を充分に働かせようと思うと20℃以上の水温が必要です。
含まれる洗浄力の高いパルミチン酸・ステアリン酸の石けん成分を生かそうと思うと、それを溶かすためにはさらに高い40℃以上の水が必要になります。
しっかり溶かすことによって、石けんの界面活性剤は、本来持っている強い洗浄力を発揮することができるので、水温はとても大切です。
5、アルカリによる皮膚刺激性がある
まずは、アルカリ性の水が汚れを落とす仕組みを見てみましょう。
水の分子は水溶液の性質により、水素イオンと水酸化イオンの割合が変わります。
水素イオンが多いと酸性、水酸化イオンの割合が多いとアルカリ性を示します。
水素イオンと水酸化イオンの割合が同じ時には、液性は理論上中性(pH7)となります。
(酸とアルカリについての詳しい話は→こちら)
アルカリ性を示す水溶液中では、水酸化イオン(OH-)が固体の表面から電荷を奪い、マイナスに帯電させます。その結果、固体同士の電気的な反発力を高めて汚れを分散させる作用があるのです。
また皮脂汚れの場合、その3分の1を占める脂肪酸は、弱いアルカリ(重曹pH8.2・セスキ炭酸ナトリウムpH9.8など)でも十分な量があれば中和されて石けんとなるため、水に溶けやすくなります。この石けんは界面活性剤として働くので、更に他の汚れを落としていきます。
これが強いアルカリになるとタンパク変性作用を持ちます。ペプチド鎖中のアミド結合を加水分解することにより低分子化し、タンパク汚れを落としやすくするのです。
石けんの製造過程と同じように、油脂を分解して石けんとグリセリンにする反応も進みます。(この「鹸化」は弱いアルカリではできない反応です)
これが、アルカリ剤を使うお洗濯の仕組みなのですけれど、肌に使う場合には逆にこのアルカリ性のために皮膚刺激があることになるのです。
アルカリでも酸でも、その液性が強くなるほど肌に浸透しやすくなります(膨潤)。
アルカリは特にタンパク質でできている体の組織には影響が大きく、強いアルカリはタンパク質を融解し深部へ到達するため、肌に付いた場合は酸より損傷が強くなるといわれます。
弱アルカリに分類される石けんのpHは8〜11(JIS規格・粉せっけん)。
そのため、脱脂作用によるバリア機能への影響と、バリア機能が働かなくなった肌に対するタンパク変性作用の危険性があるのです。
■肌に使う場合のアルカリの作用■
・アルカリ性だからこそ皮脂汚れが落ちること。
・「美肌の湯」と呼ばれるアルカリ単純泉は、古い角質を取る効果があること。
・健康な肌は、皮脂の分泌により3時間ほどで元の弱酸性の肌に戻ること。
また、この健康な肌の弱酸性に戻る機能を損なってはいけないこと。
・肌に優しいように思える弱酸性の洗剤は、合成界面活性剤であり肌に残留すること。
・弱酸性では、古い角質が取りきれず肌がごわついてくること。
弱アルカリである石けんに関しては、使う方や使用目的によって賛否両論があります。
このような石けんの特性を知ったうえで、ひとりひとりが判断しても良いのではないでしょうか。
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