天然にも存在している界面活性剤
界面活性剤は、もともと自然界の中にも存在しています。
私たちの細胞膜を構成するリン脂質もそうですし、動植物に多く含まれるサポニンやレシチン・ペプチドなどは、天然由来の界面活性剤として食品添加物や化粧品材料など様々なところで利用されています。
天然の微生物が生成する界面活性剤「バイオサーファクタント」の研究も進んでいます。
納豆菌が作り出す環状ペプチド(サーファクチン)、天然酵母に類する微生物が油脂と糖類の発酵から生成するソホロリピッドなどがそうです。
バイオサーファクタントは、分子量が大きく界面を真っ先に覆うため、非常に低濃度で効力を発揮する性質を持つものが多いと言われています。また、合成界面活性剤との併用により、その使用濃度を大幅に下げることができるため、排水に含まれる有機物の総量を減らすことが可能になります。
生き物が作り出すものですから生分解性にも優れているのですが、半面、生産効率が悪いという問題があります。
ここでは、レシチンとサポニンについて見てみましょう。
レシチン
リン脂質(Phospholipid)は、構造中にリン酸エステル部位をもつ脂質のことで、両親媒性を持ち、脂質二重層を形成して細胞膜の主要な構成成分となったり、生体内でのシグナル伝達にも関わったりしています。
レシチンは、そのリン脂質のひとつです。
グリセリンを骨格に、2つの脂肪酸がエステル結合して親油基となり、コリンがリン酸エステル結合した部分が親水基となる、両性界面活性剤に当たります。
界面活性剤として、特に油を水に分散させてエマルションを作る乳化力、皮膚や粘膜から物質を透過吸収する浸透作用に優れています。アセトンやエタノールを用いて抽出された卵黄レシチンや大豆レシチンが主に利用されています。
弱酸性であり、食品添加物としても化粧品にも使われていますが、構造を安定させるために水素を添加した水添レシチンが用いられることもあります。
サポニン
サポニン(saponin)の語源は石けん(soap)の語源と同じ、ラテン語のsapoです。
親油基となるサポニゲンの部分はトリぺルテンやステロイド、親水基の部分がオリゴ糖(2個以上の単糖類が結合したもの)であり、非イオン界面活性剤に分類されます。
大豆・小豆・サイカチのサヤ・茶葉・とちの実・ムクロジの果皮・オリーブやブドウの果皮・朝鮮人参・キキョウなど、様々な植物に含まれている「苦味」のもととなる成分です。ヒトデやナマコなどの生物の体内にも含まれています。
食品添加物では、キラヤ抽出物・大豆サポニン・ユッカフォーム抽出物などの乳化剤が、自然界にあるサポニンを利用したものです。
写真(左)がムクロジの実です。
「無患子」と書き、滋養・強壮に効果があるとされ利用されてきました。また、中の黒い種子はお数珠や羽根つきの玉に使われることから、ムクロジの木は神社の境内によく植えられています。
この果皮には20%という高含有率でサポニンがあると言われ、Soap berryやSoap nutsとも呼ばれています。海外では「ソープナッツ」が自然派の石けんとして利用されています。
写真(右)はサイカチのサヤです。
これもサポニンを多く含むため、かつてはサヤを水に浸けて揉んだり煮出したりしたものが、石けんとして使われていました。中性であることから、石鹸が普及するようになってからも、アルカリに弱い絹の着物の洗濯などに利用されていたようです。
果実は皁莢(「さいかち」または「そうきょう」)という生薬で去痰薬、利尿薬として用いられています。
こちらは、サポニンの一種である「ソラニン」の構造です。
ナス科の植物に含まれ、ジャガイモの芽に多く含まれる毒物として、身近にあるもののひとつですね。
神経に作用する毒性を持ち、中毒すると溶血作用を示し、頻脈、頭痛、嘔吐、胃炎、下痢、食欲減退などの症状を呈します。
グルコース・ガラクトース・ラムノースなどの糖から出来ている部分が親水基の役割を、右上のステロイドアルカロイドが親油基の役割を果たしています。
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