毒と薬は表裏一体
天然の界面活性剤であるレシチンは、体内の正常な生理作用を補助する働きを持っており、栄養素としても重要な存在です。
脳内の神経伝達物質の合成に重要な役割を果たし、脳の機能を活性化して記憶力や集中力を高めるため、老人性痴呆症の予防・睡眠の改善に効果があります。
また血管壁に付着したコレステロールを溶かすため動脈硬化を抑制します。他にも肝臓・腎臓の解毒作用、肝疾患(脂肪肝・肝炎)の改善などたくさんの効果があり、健康食品としても利用されています。
(稀に吐き気・嘔吐・下痢などの副作用があります。)
また、漢方薬として用いられる生薬の多くはサポニンを高濃度で含みます。サポニンの界面活性作用によって、より確実に薬効成分を細胞の脂質二重膜の内側に浸透させることができるといわれています。
ただし、界面活性作用を持つということは、細胞膜を破壊したり、血液中で赤血球を破壊(溶血作用)したり、水中では魚のエラを傷つけ魚毒性を呈したりといった危険性にも繋がります。
界面活性剤の影響について見てみると、その特異な性質という意味では、合成であろうが天然であろうが変わりないようにも思えます。
生理活性を持つ物質の常ですが、作用の強いものにはしばしば毒性があるもので、毒と薬は表裏一体。その量と使い方次第なのですね。
ですから、自然のものだから安心というわけではないのです。むしろ、それぞれの生物が生き抜く知恵を身に付けた自然の中だからこそ、人に影響のある物質も数多く存在していると考える方が自然かもしれません。
ただ、化学的根拠が全くなかった昔から、人々は身近にある自然を利用し共に生活をしてきました。その経験の積み重ねから、危ないものも効能があるものも「生活の知恵」として受け継がれてきているのです。
そして、人も動物も馴染みのある物質や少量の毒ならば、肝臓で代謝することで対応ができます。自然の中に存在する程度の濃度でしたら、それを分散し、分解して循環させる自然の仕組みも働くのです。
人をはじめ自然と合成界面活性剤との歴史は、そのような仕組みを会得できるほどには浅すぎます。また、合成界面活性剤は生分解性が良くなるように日々改良されていますが、人工的な手法で分子構造を変えた合成物質を自然の仕組みで分解するには、それ相応のエネルギーと時間を要するのは無理のないことなのかもしれません。
安価でその作用の安定している合成界面活性剤は、企業にとってもそれを購入する消費者にとっても都合のいいものです。だからこそ、界面活性剤の性質を知り、体や自然の許容量をはるかに超える濃度で使用されている危険性を認識することがまず必要なのです。
目次へ戻る 前ページへ 次ページへ