腐敗した有機物の発する物質を悪臭と感じるのは、進化の過程で身に付けてきた死臭による危険の察知のためであり、食物の状態を判断するためのものです。自然界では、動物は敵となる動物のにおいをいち早く察知しなければいけませんし、マーキングされたにおいによって相手が自分より強いかどうかの判断もしています。
 

また、娘が父親のにおいを嫌がるのは、遺伝子的に近い個体との交配を避ける「生物としての本能」だという説もあります。
認知症患者においては、初期の段階から嗅覚が鈍くなりやすいことがわかっており、嗅覚の刺激によって病状の進行を遅らせることができるという報告例もあります。


このように嗅覚は五感のうちでも特に鋭敏であり、記憶との結びつきが強く、本能的・原始的な感覚に近いことから、脳に直結した感覚だとされているのです。
また。嗅覚は、わずかなにおいでも感じるほど鋭敏で、その感度は味覚の1万倍といわれています。

 
 
そして、感覚刺激の中でも、その伝達プロセスがとても短い嗅覚
それは、生物として生き残っていくために最速で判断せねばならないのが嗅覚であるためと考えられています。





 

 

においを感じる仕組みとは?

 

アメリカの生物学者のリンダ・バックが、リチャード・アクセルらとの研究で嗅覚受容体遺伝子を発見し、そこから嗅覚のメカニズムの解明が一気に進みました。彼女は2004年に「におい受容体および嗅覚システムの組織化の発見」でノーベル賞を受賞しています。
 
 
それにより、においが人体に及ぼす作用が科学的に証明されるようになってきました。
とても主観的な感覚である嗅覚の作用が測定できるようになり、数値として表すことが可能になったのです。
 
 
現代西洋医学では力の及ばないところを補完・代替することで、疾患の治療や未病段階からのケアにつなげていくもののひとつに、精油を用いたメディカルアロマセラピーがあります。医療行為であるメディカルアロマセラピーにおいて、そのメカニズムや効用・効能に科学的根拠が付加されれば、その応用が日本でも進むことになると期待されています。
 
 
では、そのにおいを感じる仕組みについて、見ていきましょう。





においを感じる仕組み


  1、嗅球(きゅうきゅう)
  2、僧帽細胞(そうぼうさいぼう)
  3、篩骨篩板(しこつしばん)
  4、鼻粘膜上皮
  5、糸球体(しきゅうたい)
  6、嗅細胞

 



鼻から吸い込まれたにおい分子は、鼻腔内で鼻粘膜上皮に作用します。
この鼻粘膜上皮は粘液で覆われており、そこににおい分子が溶け込むのです。
 
 
鼻粘膜上皮には、においを識別する特殊な神経細胞である嗅細胞が数千万個びっしりと並んでいます。
この嗅細胞は、鼻腔側の粘液部分に20本ほどの嗅小毛を出しており、その表面には嗅覚受容体があります。ここに粘液に溶け込んだにおい分子が結合すると、電気信号が発生します。
この電気信号がある一定レベルを超えると「この種のにおい分子を補足した」と嗅細胞が判断し、その神経インパルスが脳へ送られることになるのです。
 
 
 
(ちなみに、ひとつの嗅細胞にある嗅覚受容体は遺伝子によって決まっているため、全て同じにおい分子としか結合しません。「鍵穴」と「鍵」の関係に似ており、嗅覚受容体という「鍵穴」ににおい分子という「鍵」がはまった時だけ電気信号が発生するのです。)
 
 
 
嗅細胞から出た神経突起(軸索)は、20本ほどが集まって嗅神経の束になった後、篩骨篩板にある無数の小さな穴を通って、脳の底にある嗅球入っていきます。
終脳の終末端にある嗅球では、同じ種類の嗅細胞からくる軸索が集まって糸球体を形成しています。この糸球体で、高次脳へ電気信号を送り出す僧帽細胞とのシナプスが形成されているのです。
 
 
その僧帽細胞からの神経インパルスは、大脳辺縁部の嗅覚野に入り、瞬時に視床下部・海馬へと伝えられます。
この伝達経路からは、においという「入力」が、記憶や情動、危険回避といった「出力」に「直接」結びついているということがよく分かります。


 
 
  

 

何千種類ものにおいを嗅ぎ分けられる仕組み

 

脳には「におい地図」があることが分かってきました。
 
 
嗅覚受容体遺伝子によって作られる嗅覚受容体のうち、機能的な嗅覚受容体の種類は、人間は約350種類、イヌは約1,200種類、マウスでは約1,000種類が確認されています。 
 

同じ「鍵穴」つまり同じ種類の嗅覚受容体を持つ嗅細胞(数万〜数十万個)から伸びる軸索は、同じ種類の糸球体へと繋がっていますが、その糸球体の集まる場所は嗅球の中で「何丁目何番地」といった具合に決められて配置されているのです。
これは、信号が混ざり合うことなく正確に伝えられるための仕組みです。
 
 
嗅細胞は約60日しか生存しないので、日々新しい細胞に入れ替わっていきます。その度に軸索を正しい糸球体の場所へ「道案内」するためのガイド分子も存在しています。
 
 
そして、ひとつの嗅覚受容体はひとつのにおい分子しか受容しないのではありません。
複数のにおい分子をそれぞれ違った「鍵」として認識することもあります。
ひとつのにおい分子が違う嗅覚受容体で違った形で認識されることもあります。
また、においの濃度が異なると嗅覚受容体の認識部位が変わるため、違ったにおいとして糸球体で判断されます。
 
 
このように嗅球では、芳香物質を構成するそれぞれの芳香化合物(におい分子)の化学構造や比率・濃度などによって、個別に「におい地図」を構築し識別をしているのです。


  
 
 
 

 

嗅覚疲労が起こる仕組み

 

 
同じにおいを嗅ぎ続けると、数分のうちにそのにおいを感じなくなってしまうことがあります。これを嗅覚疲労といい、嗅覚は他の感覚器官に比べて著しく疲労しやすい感覚器だといわれます。
 
 
これは、脳が受け続ける神経インパルスで疲弊しないよう、外の世界から受け取るにおいの情報を、嗅覚システムの初期の段階でコントロールしているためと考えられています。
また、嗅覚疲労を起こしても別の種類のにおいへの感度は低下しないことから、危険予測のために新たなにおいを少しでも早く感知するためだという説もあります。
 
 
嗅覚疲労は、神経インパルスの伝達の段階で起きていることがわかっています。
におい刺激を与え続け、僧帽細胞を繰り返し活性化させた場合(5回/秒を20秒以上)、嗅神経―僧帽細胞間のシナプスが弱まって神経インパルスの伝達が弱まります。これが嗅覚疲労として認知されるのです。
 
 
その弱まった状態は、その後1時間以上も続きます。シナプスが弱まることで僧帽細胞の興奮は鎮まっていきます。(嗅覚疲労に要した時間と同じ時間を回復に要するという説もあります。)
 
 
しかし、強いにおいや不快なにおいを嗅ぎ続けて嗅覚疲労が頻繁に起こるようになると、その機能は次第に回復しなくなって感度が低下したり、いくら強いにおいであっても全く感知できなくなってしまうこともあるのです。
香水や洗剤、柔軟剤といった普段使っているもののにおいが分からなくなっている場合がこれに当たります。 




 
■嗅覚受容体について■

嗅覚受容体は鼻粘膜だけに存在するものではありません。
肺や血管・皮膚などにも存在しています。
これらは、芳香物質を「におい」としてではなく「刺激」や「信号」として受け取ると考えられています。

嗅覚受容体については、現在様々な研究や発見が続いており、今後の新しい情報にも期待したいですね。


Wikipediaから抜粋


脊椎動物ではこのタンパク質は嗅上皮に、昆虫では触角に位置する。精子細胞も匂い受容体を持ち、卵子を見つけるための走化性に関連すると考えられている


G NAVIから抜粋

香り物質を感知する嗅覚受容体は、鼻の奥の嗅上皮に存在していますが、嗅上皮以外の臓器や組織にも存在し、「香りの感知には関与しません」が、様々な生理機能に関与する可能性が報告されています。本コラムでも、例えば角膜(2015-6-8)、肝(2015-2-25)、皮膚(2015-1-18)、肺(2014-6-4)、腎(2013-12-18)などでの存在を紹介してきましたし、これらの臓器以外にも、脳、心臓、脾臓、卵巣(卵子)、精巣(精子)などにも嗅覚受容体は報告されています。今回は、最近のnature誌に掲載された、頸動脈小体に存在して、呼吸に深く関わる嗅覚受容体についてご紹介します。まさに命を支える嗅覚受容体といえます。

ジェニファー・プラズニック


私達は鼻だけでなく身体で匂いを感じ取っている

AGAタイムス

【医師が教える】頭皮にも嗅覚!? 育毛促進に期待がもてる“ビャクダンに似せた香り成分”とは
 







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