香料が体に与える影響とは?
香料に使われている成分は、合成ムスクを始め様々な芳香化合物が混ぜ合わされていますが、薬事法などの規制外なので表示の義務はありません。それらは、香料の属性からすべて企業秘密ともされています。
そのため、製品にイメージである花や果物などだけが大きく表示されることはあっても、その実際に使われている芳香化合物が一体何なのかは、知ることが出来ないのです。
しかし香料の中には、天然・合成を問わず作用の強いものがあることが分かってきています。分子量が小さく、揮発性かつ脂溶性である香料は、人の体に取り込まれやすいうえに残存しやすいためです。
DNAを傷つける変異原性の強いものや、分解しにくく人体への蓄積が懸念されているもの、環境ホルモンに該当するものなど、その危険性も多岐に渡ります。
日本よりも先に香料ブームとなった欧米では、その危険性が広く認識されるようになり、すでに行政が規制を強化している段階となっています。その過程で販路に困った洗剤メーカーが未だ無法地帯の日本に矛先を向けたことから、日本でも香料ブームが始まったと言われています。
(→香料の健康影響 渡部和夫)
1、香料には変異原性を持つのが多くある
変異原性とは、遺伝物質である DNA や染色体に損傷を与え突然変異を起こす性質を指します。
・自然界に存在するクマリンは、マウスで肺癌肝臓癌、胃の乳頭腫を起こす。
・ベンズアルデヒドは胃癌を生じさせる。
・柑橘類に含れているリモネンはラットで腎臓癌を起こす。
・石鹸から香水、食料で広く使われている合成香料アリルイソバレレートは、
ラットに白血病をマウスにリンパ腫を発生させる。
また、合成ムスクは原性発癌性を持ちませんが、他の物質の変異原性を強めたり、癌の発生を増加させることが知られています。
2、アレルゲンとして作用する香料がある
香料は喘息を誘発したり、 悪化させたりすることが知られています。
タンパク質ではない香料はそれ自体はアレルゲンとはなりませんが、皮膚上や血中・体内で他の物質と反応することでアレルゲンとなるのです。
また、アレルギー体質でなくても、香料にアレルギー様の反応が起こる場合もあることが知られています。血液中に入った香料が白血球に直接作用して、ヒスタミン放出を亢進させるためにアレルギー反応を引き起こすというメカニズムによるものです。
3、内分泌かく乱物質となる香料がある
環境中に存在する化学物質のうち、生体にホルモン作用をおこしたり、逆にホルモン作用を阻害したりするものを指します。環境ホルモンとも呼ばれます。
ポリ塩化ビフェニル、ダイオキシン、フタル酸エステル、ヘキサクロロベンゼン、ビスフェノールAなどが、よく知られた内分泌かく乱物質です。
合成香料においても、一部の物質に内分泌かく乱作用があることが明らかになっており、発達障害・ADHD、パニック障害や鬱などの精神疾患、ホルモンバランスの乱れによる生理不順・更年期障害、性と生殖の異常の危険性(不妊症、性同一性障害、精子数の減少、停留精巣の増加、尿道下裂の増加)との関連が指摘されています。
また、化学物質が胎盤を通して母体から胎児へと引き継がれることを「経世代毒性」といいます。
羊水・胎盤・へその緒からは、実際にダイオキシンやビスフェノールAといった内分泌かく乱物質が検出されており、これらの物質は胎児へと移行します。
これは、水俣病やサリドマイド事件のように、症状が何もない母親から障害がある子が生まれるといった状況と同様のことが起きていることを意味します。
4、蓄積する合成ムスク類
合成ムスクは様々な種類があり、香りの保留剤としても使われることから、香水はもちろん、化粧品や石けん、シャンプー、洗剤や柔軟剤にも必要不可欠な香料です。
香り付け製品に使われる香料は、大半が合成ムスク類であるともいえます。
合成ムスクは分解されにくく、下水処理場に入った合成ムスクの60%が未分解のまま環境中に放出されています。残りの40%についても、完全に分解されたのではなく汚泥に吸着したものも含まれると考えられています。
合成ムスクの一部は難分解性による長期毒性が生じる可能性が考えられることから、1996年に業界内での自主規制が行われましたが、未だその流通量は減っておりません。
「合成香料による人と生態系への汚染とリスク」について熊本大、長崎大、京都大が研究した結果では、有明海と八代海に生息するイルカや鳥類から、内分泌かく乱作用が指摘される多環ムスク化合物であるHHCBとAHTNが検出されました。
これは、合成ムスクは分解されにくく生体内に残留しやすいこと、そして、合成香料が海の生態系の中で食物連鎖を通じて非常に濃縮されやすいことを示しています。
この生物濃縮は、人においても同様に起こっています。
2005〜2007年に熊本大学・佐賀大学が行った共同研究では、日本人の母乳や脂肪組織に合成ムスク類の「HHCB」と「AHTN」が蓄積していることがすでに明らかになっています。
これらは胎盤を通り、胎児に移行することも判明しています。
またこれらは血液脳関門を容易に通り、脳内に高濃度で残留するのですが、その代謝が遅いために高齢者の血中ムスク濃度は高くなります。これが、認知症やアルツハイマー病の誘因とも考えられています。
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